愛情週間〜プロローグ〜


 キラとは幼馴染で、親友で。
 キラと一番仲がいいのは自分だと自信をもって自負できる間柄で……。
 なのに。
 なのに何でなんだろう。
 キラの突拍子もない言動に、毎回毎回馬鹿みたいに驚いてしまうのは。
 そろそろ慣れてきてもいいんじゃないのか?
 そう思うのは果たしてアスランの希望的観測なのだろうか。

 とにかく今日も今日とて『キラ』が炸裂してることには変わりない。




「ね、アスラン」

 何かをぼんやりと考えていたキラが、急に顔をあげてアスランを振り返った。
 今まで何度呼びかけても頭どころか耳にさえ入ってなかったようなのに、瞬間うってかわった態度に呆れを通り越して疲れてしまった。
 いや、こんなことでめげててはこれから先付き合っていけない。

「何?」

 すっかり匙を投げて、こっちも好きにしようと本を読み始めたのはついさっきなのに、その本さえ閉じて応じてしまうのは…………、習慣とは恐ろしい。

「優しく怒ってもらえる悪い事って何があるかな?」
「………………はあ?」

 随分と真剣な眼差しと、それと正反対な言葉の内容。
 思わず素頓狂な声をあげてしまったとして、一体誰が責められよう。
 けれどアスランは、すぐに気付いてため息をついて呟いた。心の中で。
 ほら、また振り回されてる。
 それが何故か悪い気分じゃないのが、不思議というか。
 駄目だ。
 重症だ。

「なんかそれ色々矛盾してないか? いや、その前になんだっていきなりそんなこと」
「ん〜?」

 しかしまだ思考回路が完全には復旧しないアスランに、キラはへらっと笑ってみせた。
 ……こんな顔してるときのキラはろくなことを考えない。
 たぶん、自覚はないんだろうけれど。

「あのね、先々週は愛鳥週間だったでしょ?」

 問われてそういえばそんなものもあったなと頷いた。
 が、やっぱり突然は話題に首をかしげずにはいられない。

 愛鳥週間、それは月の政府が設定したもので、けれど実際に何をしたかというと、休日にそれなりなイベントが各地で開催されただとかその程度のものでしかなかった。
 アスランが認識しているものとしては。
 所詮『そういえば』レベルなのだ。
 その上キラには、その休日さえまったくもって関係なかった。
 なぜならその日は例によって例のごとく、キラのためこんだ課題を消費するのに二日とも費えてしまったからだ――もちろん半分以上アスランの功績である。
 もしかして何か参加したいイベントでもあったのだろうか。

 いやしかし、なんだってそれが『悪い事』につながるというのだ。
 どこをどうやって?

 …………だんだんと考えるのが馬鹿らしく思えてきた。


「それで、先週はおそうじ週間だったでしょ」

 いっきに規模が小さくなった。
 星規模から学校規模まで。

 ちなみにおそうじ週間とは。
 わかりやすい名前から推測できるように、いつもより気合いれてそうじをしましょう週間である。
 具体的には美化委員の点検が入るというだけだ。
 各項目ごとに五段階で評価がついて一週間で一番成績の良かったクラスには賞品がくる。

 が、だからそれでどうして『優しく怒られる』に繋がるのか。
 謎は謎をよび、深まるばかりである。

「それが何?」
「先週先々週ってなんとか週間ってきたんだから、今週も何かないと寂しいかなあ、とか思って」

 全然思わないよ。
 口には出さずに突っ込んだ。
 ここで話を折ったら進むものも進まなくなってしまうだろう。
 最悪キラがすねてしまうか。
 そんな事態は極力さけたかった。

「で今週が?」

 話の流れからすると『優しく怒られる悪い事』を実行する週間だろうか。
 あまりうれしい想像ではない。

 自分のためにほっとけば飽きるだろうと、勝手な読みをつけ、アスランは先ほどの読みかけの本のページを探し出した。
 そんなアスランにキラは一瞬むっとした顔をしたが、それでも気をとりなおしてその本を取り上げると、顔をあげたアスランに視線を固定したままその本をほいっと後ろに投げてしまった。
 これは『優しく叱るべき悪い事』だろうか。それとも『本気で怒鳴るべき悪い事』だろうか。
 頭の片隅で考えた。


「聞いてよ! 今週はね、なんと。愛情週間!」

 満面の笑顔とはこういうことを言うのだろうか。
 キラの顔がむしろ本当に輝いて見える。
 ――現実逃避だ。

「あ?」
「だから、あ・い・じょ・う、週間」
「何、するつもり?」

 愛情。
 その二文字から連想されるものの中に『悪い事』は入っていなかった。
 もしかしてキラの中には入っているのだろうか。
 それはものすごく嫌な想像だった。
 キラは国語は苦手じゃなかったはずなのに。

「悪い事ー」
「意味がわかんないよ、キラ」
「ええ? なんで? 本当にわかんないの?」

 そんな風に聞かれればわからないこっちのほうがおかしいのではないかと思ってしまうが、そんなことは決してない……はずだ。
 心底不思議そうなキラにアスランはゆっくりと頷いた。
 困惑をしっかりと浮かべて。

 否。
 実際はなんとなくではあるが、そうなんとなく予想はつかないでもなかった。
 がしかし、深く考えたくなかった。

「駄目だなあ、アスラン」
「キぃラぁ」
「あのね、愛情週間っていうのはね、その名のとおり愛情をもって一週間すごしましょうっていうのでね」
「うん」
「キラは悪い事するから」
「怒らないでね、って?」
「そう!」

 楽しそうに笑うキラは、それはもう究極的に可愛かった。
 その路線は天使みたいに、だと思っていたんだが。
 実は小悪魔みたいに、に変更しといたほうがいいのだろうか。

「キラの愛情週間じゃないんだ? キラの周りの人の愛情週間なんだ?」
「え? キラの愛情週間だよ? キラが愛情込めて悪戯するの。だってキライな人に悪戯とかしたくないでしょ? キライな人に怒られるのってなんかムカツクし」

 正論なのか、むちゃくちゃなのか。
 喜ぶべきなのか怒るべきなのか。
 愛情週間なのか哀情週間なのか。
 目的は怒られることなのか。それってどうなんだ。
 その前に止めるべきではなかろうか。

 いろんな選択肢がぐるぐるとアスランの中を廻った。

 そんな中でキラの笑顔に騙されて思考を完全に放棄したのは、これは完璧にアスランの失態だった。
 キラが愛情週間を実行したらどうなるのか。
 確実に被害を受けるのはアスランだということを、彼はすっかり失念していた。
 いや、その笑顔を守るためなら少しの被害ぐらい甘んじて受け入れよう、というかきっとそれっていつもと変わらない、とアスランは少しばかり事態を軽く見すぎていたかもしれない。
 その思うのはもう少し後のことである。




「ってゆーか、キラ、お前暇なんだろ、ただたんに」
「そうかもしんないけどそんなことないもん」
「キーラ、言ってることめちゃくちゃ」


 止めなかったのは、アスランも少し、退屈していたからかもしれない。







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あとがき。(反転してください)
SEED初書き、受験生な管理人です(待てよをい)ちょっとキラがショタショタしすぎました(反省)ってゆーかアスランも馬鹿だよ、この話。キラ馬鹿とは違った方向で。よそ様の幼年アスランはあんなにもしっかりしてるのに……。ああ、最後まで反対してキラが押し通すっていうのは書くのタイヘンそうだったからとはいえない。
とにもかくにも全7話(除プロローグ)で頑張って書いていきたいと思います。一日一悪戯。…………どうしよう、私がやりたくなってきた(ガキ)いやでも一日一アスキラのほうが。待て。それはきっと欲求不満に(爆死)