拍手御礼小説 「蝶」

運命40話付近。黒キラ注意。


 

 「そろそろ諦めろよ」と呆れた声をBGMに無理に――わかってる。無理、なんだ――身体を動かせば、もうどこのものかもわからない――あそこもあそこもそっちもここも――痛みに身を捩った。
 そのせいで更に傷口が悲鳴をあげた。




「……ぅ……っ、っく、……はぁっ」




 もともと頼りなかった腕ががくっと折れて、倒れこんだ衝撃が背中を押そう。
 マットのやわらかいそれでさえ、耐えれないという。
 肺にまで届いた衝撃に行きがつまった。
 こほっと咳き込めば、またそのせいで息が出来なくなってしまい、絶対的に酸素が足りない。
 ひゅっと喉が鳴った。




「何やってるんだよ」


 隣の住人の声は心配してくれているのかもしれないが、しかしバカにされているように聞こえた。


 きっと他でもない自分自身が嘲笑っているせいだろう――被害妄想に近い。





 本当に笑ってやろうとしたら、胸が痛んでおれすら出来なかったけれど。












「アスラン」


 聞きなれた声がした。

 反射的に見やれば、彼以外にありえない。




 何しているのとだ尋ねるそこに彼の感情は表れていなかったが、明らかに怒っていた。
 
気付かなかったが、いつからいたのだろう。
 まさかとは思うがやはりじたばたしているのを見られてしまったか。
 もう何度も――止められているというのに。





 何をしているのかと。



 何を……?







 

 わからない。






 何がしたいのか。






 それも、わからない。






 何もわからない。







「縛り付けてあげようか」


 囁く声は場違いなほどに柔らかい。








「翅をもいで、篭に閉じ込めて」


 そんなひどいことを囁く。









 飛ばない蝶に興味などないくせに。



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