運命40話付近。黒キラ注意。
もうあれから何年になるか。
2人で共に過ごしたある年の夏。
夏や海。
虫とり網とかごを掴んで走った。
一匹の蝶を追いかけて。
ひらりひらりと舞う、紫が印象的な蝶。
――ただ追いかけたかった。だから追いかけた。
――捕まえたかった。欲しかった。だから追いかけた。
まるで遊ぶように子供の手をかわし。
息をあげてひたすらに追いかけた。
空気を切る音。
何十回目かの挑戦。
一瞬で空からその姿は消え去って。
むしろそのことに驚いて下を見れば、網の中に蝶がいた。
喚起の声をあげ、子供らは、網に絡まりもがく蝶に見入った。
一人が、逃がしてやろうと言うまで。
きょとんとしてもう一人が言う。
「何故?」と。
あどけなく。
無邪気に。
何のための篭だと一人。
かわいそうだともう一人。
――それで、結局どうなったんだって?
――結局根負けして捕まえて。キラが言えに持ち帰ったから、どうなったのかは、知らない。ああでも、外で生きてきた蝶が篭の中で、そう永らえるとも思えませんが」
――結局、どうなさいましたの?
――結局? どうだったかな。忘れちゃったよ。
――本当に?
――秘密。
紫が印象的な一匹の蝶。
儚い命の美しいその翅を千切って仕舞った。
大事に大事に隠して了った。
その翅だけを。
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