拍手御礼小説 「蝶」

運命40話付近。黒キラ注意。


 


 なんでそんなに、抗おうとするの?
 何がしたいの?
 何に抗っているの?





 ――――僕に?





 許さない。

 許さないよ、そんなこと。

 認めないから絶対に。







 だからもう諦めちゃいなよ。
 お願いだから、諦めて、よ。

















 空いた時間にアスランのところへと行くのはもう習慣になってしまった。



 逢うために?





 まさか。




 見張るためだよ。

 逃げないように。







 訪れた医務室の光景に、思わず顔をしかめてしまった。
 それが見慣れたものであっても。
 いや、見慣れてしまったからこそ、いっそう、更に。


 彼はもう一つのベッドの住人いわく「ジタバタ」してた。
 おとなしくするように皆口をそろえて言うのに、何で言うこと聞いてくれないんだろう。






 また、抗う。


 逃げようとする。


 



 駄目なのに。






 どうにか起き上がろうと、手をつき痛みに顔を歪め、動かない身体をよじって苦しげにうめいて――崩れ落ちる。


 だいたい今起き上がって何をしようというのか。
 何もできないくせに。
 起き上がることすら自分の力で出来ないのに、一体何が出来るというんだ。




 すごく腹が立った。


 苦しげな表情は彼のものであったなら別に嫌いではないけれど、それを引き出していいのは僕だけなんだよ?



 お気に入りのおもちゃを勝手に触られる不快感。




 けれども出来る限りおだやかに

「アスラン」

 名前を呼んだ。
 何をしているのと言って。




 そしたら罰の悪そうな目と目があった。








 いっそもう縛り付けてみようか。
 動けないように。
 標本の蝶のように。



 野をひらひらと舞う蝶は、そうだね確かに嫌いかもしれないけれど、少し鬱陶しいかな。
 だから防腐剤につけこんで、ピンでさしてしまおう。




 大丈夫。




 美しさは損なわれない。
 永遠に。











 もう逃げられない。
 僕だけのもの。





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