拍手御礼小説 「蝶」

運命40話付近。黒キラ注意。


 

 身体が睡眠を求めているのは確かだが、寝てばかりいてはという気持ちがあったせいなのだろう。
 寝て起きてを繰り替えいている気がする。
 記憶はあやふやで確かなものなの何一つとして、ないのだけれど。




 ただもの何度目になるのかわからない独特の浮遊感が、そろそろ深いにはなってきた。








 眠りたいのに眠れない。




 眠りたくないのに、眠ってしまう。




 これでは何にもならないではないか。
 いや、十分足手まといにはなっているのか――医者の仕事は増やしているし、少なくとも何人かの心理状態にはいいと言えない影響を与えている。キラとかカガリとか。それぐらいの付き合いをしているはずだったから。





 情けないことだ。
 おして何より、なんともわずらわしい自分という存在。
 悩んでばかりで、いざ決めたと思えば、関係のない少女にまで怪我をさせた。
 もう何人傷つけたかさえわからない。
 数えたくもない。



 あの、反抗的な、しかいその実寂しかったのだろう少年も。
 裏切って傷つけて…………、逃げた。




 彼から逃げた。
 ――否。
 彼からも逃げた。







 

 結局のところいつだって逃げている。








 何度目か前に目覚めたとき、傍にはまたその元から逃げだした人がいた。
 逃げて――戻ってきた。




「もうどこにもいかないで」



 頬に触れた手は冷たく――熱があがっているのかもしれないと思わせるほどには――言葉からも表情からもその印には読み取れなかった。


 ひどく、遠い。


 懇願でも希望でも思いですらなく、ただ事実を告げるときのようなそれが。





 ふと、思った。


 もう逃げられないかもしれない。







 笑いたい気持ちになったのは何故だろうか。




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