小話4:懲りずに幼年課題


「……キラ」
「えっ!?」

 また、これだ。
 さっきから静かだと思っていたら……。
 そりゃ静かなはずだよ。
 鉛筆走らせる音さえしないんだから。

 注意するどころかため息をつくことさえできずに、全く頭が痛くなってくる。
 じっと見つめられてると居心地が悪いとキラが言うから、横で大人しく本を読んでいたのに、こうまで堂々とサボるのならばやっぱり監視は必要だろう。
 求められている幼すぎて泣きたくなってくるが。


「問題、解く」
「あ、ああ、うん」

 頷くけれど、頷くだけ。
 指でくるくるとペンを回して、それは紙へと到達しない。

「キラ」
「ねえアスラン、お腹すかない?」

 …………こうもあからさまな態度だと呆れを通り越して笑えてくるのだが。


「すかない」

 すげなく切り捨てる。
 罪悪感などあるわけがない。
 むしろキラのためだ。
 なんだかんだと課題を引き伸ばそうするが、けれど提出できなくて怒られるのはキラなんだから。
 むしろ俺は被害者だと思うよ。
 久しぶりの休みで、さあゆっくり寝ようと思っていたのに、朝早くからたたき起こされ。
 することと言えば、幼馴染の課題の監督。


「だいたいさっき食べたばかりだろ」
「サンドイッチじゃん」
「だから何なんだよ」

 不満そうに言うが、昼食としては至極妥当なものだったと思う。
 カリダさんの料理は文句なくおいしかったし。
 それにキラは別にサンドイッチ嫌いじゃかったと思うのだけれど。


「パンって腹持ち悪いんだよ?」
「一時間前だぞ?」
「え? そんだけしか時間たってないの?」
「そんなに時間たったのに、だ、なんでほとんど進んでないんだよ」
「それはあ、ねえ?」

 何故疑問系?
 何故そこで首を傾げる?
 ここはそんな開き直った態度をとるところじゃないだろ。
 ……といって聞く奴じゃないから、もう言わないけど。
 とにかく、早く終わってしまいたいのはキラも俺も同じだ。

「ねえ? じゃない。わからないんだったら教えて……」
「パンに比べてご飯って腹持ちいいよね」

 ………………。
 どうしろと言うのだろうか。
 もうやる気など宇宙の彼方に飛んでいってしまってるようだ。
 たぶんキラの場合言葉通りパタパタと。


「なんでなんだろうねー」

 『なんでなんだろうねー』はその思考のくだらなさだと思うのだが。

「ねえ、アスラン?」
「どうでもいいから今は課題」
「なんか気になって頭が課題に戻ってこないんだよ」
「一回でも頭が課題に向いたことがあるように言うなよ」
「あはは」

 呑気だ。
 呑気すぎる。
 引きずられたら駄目だとそうは思うのだが。
 こっちまでやる気がなくなってくるからもうどうしようもない。

「あ、腹持ちがいいってことはさ、つまり。消化に悪いってことだよね?」
「はあ?」
「違うの?」

 どうしよう。
 もうしばらくはキラはこっちの世界に帰ってこない気がしてきた。
 突拍子もないのはいつものことだけど。
 今日のはまたいつにも増して……。
 現実逃避が甚だしい。



 もうしばらく。
 もうしばらく待とう。
 どうせだからお茶でも入れて、気分転換して。
 それで…………。

 うまくいくのかとことん不安な計画を、頭の中で立てていく。
 なんでキラのことに関してはこうもうまく物事が進まないのだろうか。


 ため息よりも先に苦笑してしまう自分も不思議だ。

 まあ、たぶん、あれなんだろう。



 キラはそれでキラだから。








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(一言)
だからご飯は消化に悪いのか。