手紙 K.ver


「手紙?」


 いささか呆然として呟いてしまったのは、思わずあっけにとられてしまっただけで。
 別に他意あってのことじゃない。
 ショックも………、だいたい何に対してのショックだよ。
 白い紙をひらひらと示してみせるアスランは、一体僕に何をさせたいのか。
 想像できるところが哀しい。

「果たし状、とか」
「いつの時代だよ」
 ―――――にはさすがに見えないか。
 いや、自分でも無理があるなあとは思ったさ。
 せめて招待状か何かにしとけばよかったか。
 でもそれもまた……。
 微妙。
 だって宛名の字がコロコロしてるし。
 なんだかピンクのものがふわふわ手紙の周辺だけ散乱してる気もするし。
「じゃあ何」
「だから見たまんまだろ」
 平然と返す彼に、それだって「いつの時代だよ」だろと突っ込んだ。
 心の中で。
「笑っていいのかな」
「それは……、どうだろう」
 失礼だろうと戒めてくるアスランの声はどこか力ない。

 何故か。

 どうせまたくだらないところで変に落ち込んでたりなんかするんだろ。
 こんのヘタレは。
 なんだってこんなに馬鹿なのか。
 コーディネーターのくせに。
 子供の頃僕は『アスランはコーディネーターでも優秀なほう』とかなんとか思った時代もあったけど、でもそれって今おもえばただたんに他のところが欠けてどうしようもないから、そっちのほうだけでも優秀にしとかなきゃ割りにあわなかったってだけの話な気がする。
 どうしようもない。
 そして、僕もまた。
 認めたくないんだけど。

「むしろ感動?」

 だから、かもしれない。
 こうやってごまかすようにふざけたことばかり口にしてるのは。

「なんでまた……」
「え? だって僕初めて見たよ、実物」
「そうか?」
 腑に落ちないような顔をして首をかしげるってことは、アスランはきっと初めてなんかじゃないんだろう。
 っていうか、結構あるのかもしれない。
 意外と、思いを文字にして相手に渡す人っているのはまだまだ存在するらしい。
 メールなんかじゃなくて。
 ちゃんと紙に。

 悪かったなっ、どうせ僕は見たことないよ。
 もらったことなんてあるわけないだろ。
 君と違って、といささか八つ当たり気味に言ってやろうかとも考えたけど、結局やめたのは僕のプライドの問題だ。


「で、どうするのさ」
 衝動でアスランから手紙をひょいと奪い取って聞けば、どうもしないよとなんとも味気ない答えが返ってきた。
 ちょっと笑いながら。
 さっきまでの落ち込みは一体どこにいっちゃったんだよ。
 何一瞬で回復してるんだ。
 僕が君から手紙を取ったのがそんなにうれしいのか。
 ―――――――うれしいんだろうね。
 何故か?
 馬鹿だからだろ。
「どうもしない? 返事は?」
 奪ったはいいけど、どうしていいのかわからなくなってしまって行き場のなくなった手紙を弄びながら、アスランを横目に見る。
 するとアスランは少し呆れたようにため息をついた。
 でもどこか楽しそうなのは、僕の目が機能を失ったからなんかじゃない、はずだ。
「あのねぇ、キラ」
 絶対、違う。
 何かを言いかけて、やめたアスランは楽しそうというよりはもっと悪戯っぽく笑って言った。

「だってキラ、嫌だろ。俺がその子に会うの」

 だから会わないし、返事もしない。
 平然とそうのたまえるその神経が、信じられない。
 でも、それは間違ってると僕はどうしても言えなかった。
 だからこそ腹が立つんじゃないか。
 この手紙をくしゃくしゃに丸めてアスランに投げつけたくなるくらいに。
 しないけどね。
 代わりに鼻で笑って言ってやった。

「はあ? なんでさ。ああ、なんなら一緒に行って横で見ててあげるよ? アスランがお断りだか了承だかしらないけどするの」
「……………………意地っ張り」
 ぼそっと。
 どこかおもしろくなさそうに呟いた。
 それでも気を取り直してか向き直ってくる。
 そっちがそうならこっちも応戦してやるさと更に言葉を続けようとしたけど、でもそれはならなかった。
 アスランが言ったから。
「ってゆーか、返事する必要ないから」
「…………はあ?」
 一瞬意味が理解できなかった。
 何?
 実はそれは本当に果たし状だったりするわけ?
 などと変なことまで考え出してしまう始末。
 いやそれは絶対にないと即座に打ち消したけど。
 そんな僕にアスランは……、満足そうだ。
 そしてぬけぬけとこんなことを言う。
「ちゃんと断ったよ? もらった時に」
 だなんて。
 気付いたら僕は手紙を投げつけていた。
 くしゃくしゃに丸めて。
 無性に悔しくて。
 どうやら僕は遊ばれたらしい、と。
 その証拠にアスランは僕が投げつけた手紙をすんでのところでガードすると、おちたそれを拾って何の感慨もなくゴミ箱に投げ入れた。

「君、最低だ」
「悪かったって。ごめんね、キラ」
 謝ってもらっても、ぜんっぜん信憑性がない。
 頷かないで、さてどうしてやろうかとそっちに思考をめぐらせることにした。
 今ならきっとある程度無茶なこと言っても快く頷いてくれるだろう。
 気に入らないけれど、とても機嫌がよさそうだから。
 だから、だからもっとむちゃくちゃな。
 僕で遊んだことをその瞬間後悔するようなやつがいい。
 後ろから抱き込まれながら僕が考えていたことといえば、そんなことだ。





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あとがき。(反転してください)
気に入らないのは、手紙そのものじゃなくてアスランだって結論なんでしょうか(聞くな)
しかし果たし状だったらきっと送り主はイザークだと思う私は、心底短絡的だと思われる。
そのうちアスランバージョンも書けたらな、と思います。ええ、もっと露骨な嫉妬ぶりを!