「アスラン」 さっきからずっと眺めていたのだけど。 パソコンに向けられた視線はこっちを見ることはなくて。 ……一回も。 だから、呼んだ。 呼んだら、やっとアスランがこっちを見てくれた。 ただし、ああまた……こいつはきっとロクなことを考えてない、とかなんとか思ってる目で。 失礼な。 そこまであからさまに表情にだしてくださる必要はないと思う――僕以外の人に対してだったら、ほとんど無表情とかざらなのに。 「どうかした、キラ」 それでも律儀に反応してくれるアスランに、少し気分が浮上する。 「あのさ、ちょっと考えたんだけど」 前置きに、アスランの顔がさらに渋くなった。 今さら気になんかしないけれど。 「…………何?」 「僕がセックスしないって言い出したらどうする?」 「………」 カタン、とアスランの手がキーボードに落ちた。 それから少しの沈黙も。 「アスラン?」 「……はあ?」 軽く首をかしげると、やっと返事がかえってきた――返事と呼べるものかどうかはおいとくとして。 そんな彼の思いっきり怪訝そうな顔に思わず笑ってしまう。 「ね、どうなの?」 「どうなのってそんなの……。だいたい聞いてることの意味がわからない。何を求めてるんだ?」 憮然として言っているように一見見えるけど、けれどその声がなんとなく震えてるような気がして、さすがのアスランも動揺してるらしい。 また少し、気分が浮上した。 第一の目的は達成。 アスランの興味は完全にこちらに。 僕のところに。 「何って?」 「だから、キラはどういう意図を持って言ってるのかってこと。その1、聞いてみたかっただけ。その2、本当にしたくない」 アスランは意外と……っていうか、結構真剣だ。 「どっちだと思う?」 「2だと痛い」 だろうね。 でもアスランは僕がいくらしたくないって本気で言っても、全然とりあってくれないから、これ聞くことに意味があるとは思えないんだけど。 それとも、今はそういう空気じゃないから、いやだって言ったらしないでいてくれるのかな? 「まあいいや。とりあえず答えて?」 「いや、全然よくないよ。2だとさらに聞かなきゃならないことが増えるだろ」 「例えば?」 「俺のことが嫌いになったのか、もしくはただしたくないだけなのか。もしかして身体の調子が悪いんじゃないか」 アスランの様子はあくまで真剣で……。 むしろからかわれてる気になってきた。 なんで? 「……アスランが求めてこなくなったらまず最初に身体の心配してあげるよ。それとも頭かな。とりあえず僕にまでそれを当てはめないで」 「だいたいキラがしたくないのはどこからなのか?」 「…………は?」 今度は僕が困惑する番だった。 アスランの言いたいことがいまいちよくわからない。 「キスはOK?」 僕は少し首をかしげた。 キスは……セックスには入らない、と思う。 っていうか、僕がしたくないと言うことには入らない――僕が例の言葉を本当に言ったと仮定した場合でも。 僕の意識はどこかに飛んでいっちゃったりしないし。 痛くないし。 暖かくて優しいし。 安心するし。 ……好きだ、し。 「キスはいい」 「じゃあハグは?」 「ハグだけ? 他になんにもしない?」 アスランが頷いたから僕も頷いた。 ってゆーか、なんか順番が反対な気がする。 キス<ハグなの? 僕としてはハグ<キスなんだけど……。 まあ今の場合そんなのあんあまし関係ないんだけど。 そんなことを考えてると、アスランがやわらかな笑みを浮かべた。 なんだ、もう復活? ――当たり前か。 さすがに僕が本気であんなことを言ったわけじゃないとわかるだろうから。 でもまだ、聞いたことには答えてもらってないんだけどな。 「じゃあとりあえずおいで、キラ」 「うん?」 招かれるままに、どこか操られるように、アスランに近づけば、あと一歩というところでぐいっと腕をひかれて、次の瞬間にはアスランの腕の中にいた。 「これはOK」 「うん」 次に軽く音をたててキスされた。 「これもOK」 「……うん」 そしてその次――。 あっと声をあげる余裕もなかった。 顎を掴まれ、もう一度唇をとらえられて、そして拒む間もなく舌を差し入れてくる。 「………ぁ……ん〜っ」 歯列をこじ開け舌を絡めて、ゆっくりと上顎をなぞられ、かと思うと舌をきつく吸われ……。 息をつく暇もなかった。 「ア……スっ!」 合間になんとか訴えようとするが、とりあってくれそうな気配はない。 どころかもう一度とられ奪われて。 放されたのは、しゃべれないくらいに息があがってしまった後だった。 胸を上下させて空気をとりこむ僕と、けれどアスランはそれとはまったく正反対に全然余裕で唇は下におりていっていた――と気付いたときにはもう遅い。 ピリッとした痛みを首筋に感じる。 「何……して」 「ん? キス」 しゃあしゃあと確かに僕がいいと頷いた言葉を言ってくるが。 でも僕は、こんなつもりで頷いたわけじゃない。 ……アスランもわかってるとおもうけど。 わかっていてやっているのだとわかるけど。 逃げようにも、僕の腰を抱いたアスランの腕はきつくて、ほどけるどころか少しも身動きとれない状態だ。 アスランの手がシャツのボタンにかかる。 異様に起用なアスランを僕がとめられるはずもない。 努力は、したけど。 すべて無意味だった。 アスランの口付けは、鎖骨、胸元、臍の上とどんどん下がっていって。 これは、ヤバいのではないかと、本当に気付いた時には遅かった。 「アスランやめっ……っ」 「なんで? キラがいいって言ったんじゃない」 「いいとは言ってない! あっ、……ん、僕はっ、キスはセックスには入らないって言っただけっ!」 「セックスはしたくないんでしょ?」 だからといって、他のがしたいかといえば、そうなるはずもない! 内股の弱いところを掠っていくそれに、びくびくとしたくもない反応を身体は勝手にする。 「アス、昼間っ……いや、ぁあ、あ、……やめ」 「だからセックスはしないよ? ハグとキスだけ」 それを延々と? 嫌がらせ、だ。 絶対絶対そうに決まってる。 それ以外考えられない。 一方的な、そして激しくはないけれど決して穏やかでない愛撫は、僕の身体を変に熱くさせていく。 僕の意思ではどうしようもできなくなるぐらいに。 そしてタチの悪い唇は、何を思ったか突如下への進軍をやめ、しかしもう終わりかと気を抜きかけた僕を綺麗に裏切った。 胸の突起に吸い付かれて、僕の膝ががくりと折れた。 しかし床に座りこむことも許されない。 アスランの腕が。 「しばらく喘いでて」 「なっ、ひどっ………っ……ぅぁ、あぁ」 「そう、それからさっきの答えだけど」 『もし僕がセックスしたくないって言い出したら』の答え。 と、それにたどり着くことができないぐらいには、すでに僕はアスランに翻弄されていた。 「キラが本当に嫌がることならしないよ。…………したくなるまで」 つまりそれは…………。 「キラ」 「あすらっぁ、ぅん……はっ、ぁ」 「ちょっと見通しが甘かったかな」 そうだね、と笑っていえるのならば苦労はしない。 back (一言) こんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかっっ アスランは紳士の予定だった…………とか死んでもいえないものになってるのは何故!? |