―――――キャアァァアアァァァ 「ひっ、いぁああぁああぁぁぁ」 画面と、それから隣と。 相乗効果で二倍以上となって聞こえてくる悲鳴。 アスランのうちのテレビは確かに大きいが、それは画面の大きさであって、音量ではなかったはずだが。 せめて映像のほうでも小さくしてやろうかと思いもしたが、耳元でのほうをどうにかしないかぎり、どうともならないと気付いてやめた。 「あっ、やだっ、ひぃっ! アスラン怖いよぉ〜〜」 なみだ目になって引っ付いてくるキラは、ってゆーか、キラから見たいって言い出したのではなかったか。 横向きとは言え、うつむき加減でアスランの腕に顔をうずめたら、画面は見えるはずがない。 走り回る女性の悲鳴と共に、ぎゅっと力を入れて縋られた腕は、そろそろ痛い。 「キラ、ほら前見て。意味ないだろ、そんなことしてたら」 「だって怖いぃぃぃ〜〜」 だっても何も、ホラーだし。 怖くて当たり前だし。 むしろ怖くなかったらホラーじゃないし。 まあこれは……、言われるほど怖くない気がアスランとしてはするけど。 でもキラにとっては、これは直視できないほど十分に怖いらしい代物で。 なんだってこんなのを見ようと言い出したのか。 こうなることはわかっていただろうに。 毎回毎回全然学ばない。 しかもわざわざアスランの家にまで持ってきて。 「怖くなくてどうするんだよ」 「それはそうだけど。でもっ! アスランは怖くないの?」 「…………あんまり」 「アスラン、君、つまらない人だよね」 涙の乾かない目で、そんなことを言われた。 一体なんと返せばいいのか。 ちなみにここがキラの家ならば「俺、帰ってもいい?」だ。 しかしここはアスランの家なので、帰るも何もない。 まさかそれを見越してキラはわざわざアスランの家で見るなどと言い出したのだろうか。 まさかとも思うが、考えられないことでもない。 「ホラーは怖がってなんぼのものでしょ」 「でもこれあんまり怖くないよ?」 「アスランの、意地悪」 「はあ?」 わけがわからない。 どうしろっていうのだ。 怖くもないのに怖がれと? そしてキラと一緒になって悲鳴をあげろと? 勘弁して欲しい。 「俺さ、お風呂入りにいってもいい?」 ため息をついて、もう付き合ってられないとばかりに、逃げ道を一つ、示した。 もっとも、それでキラがすんなりと開放してくれるなどとは思っていやしないけど。 「え? 駄目! 駄目だよ、絶対駄目!! アスランはここにいて。じゃないと怖くて見てられない」 瞬間の悲鳴に、キラはまたびくっと身体をすくませた。 「……じゃあやめれば?」 「いやだよ。こんなところでやめたら続き気になって眠れなくなる!」 最後まで見たら見たで、怖くて眠れないとか言うやつが、そんなことをほざく。 …………今やめても怖くて云々と言い出す確立はきわめて高いが。 「じゃあせめて画面見て」 俺の顔で映画はやってないと思うけど。 そういうとキラはしぶしぶながら、視線を画面へと戻した。 抱き締めたアスランの腕はそのままに。 変にひっぱられて、痛い。 痛い、が。 振り払うこともできなかった。 振り払えば、そのたまった涙が流れ落ちてしまうだろうから。 たまったそれ自体は、アスランのせいではないというのに。 どこからどう見てもアスランがキラを泣かせたという構図が出来上がってしまう。 だから振り払えない。 振り払えない。 だから、 振り払わない。 「アスラン、今日僕泊まるからね」 突然の宣言に、驚いたりはしない。 いつものことだから。 どうせそうくると思って覚悟していたし。 そしてたぶん、眠れないといってひっついてくるキラの体温を感じながら同じベッドで寝ることになるんだろう、と。 それも予想はついていた。 あとどれぐらいだろうかとアスランはゆっくりと息をついた。 「うわぁあぁっ!!」 とうとう首にまで腕を回してきたキラをなだめながら。 back (一言) 幼年で。二人はまだ出来上がってない方向で。シチュエーション萌え。 |