おまけ
 
おまけ1

〈敗者:イザーク〉

「あ」
「ああ?」
「お」
「あ〜〜〜〜」
「……………………」


 上から順にキラ、アスラン、ディアッカ、ニコル、イザーク。


 そのうち上位4名の視線は一点へと集った。
 即ち、イザークのところへ。

「あ〜あ。潰れちゃった」

 赤い顔をして転がるイザークを眺め、些か残念そうにキラがいうのは、当初の標的がアスランだったからだろう。

「イザークミニスカ決定ですね」
 無情にも笑顔で負けを宣言したのは、意外にもというのだろうか、当然といっていいのだろうか、飲んでいるのか飲んでいないのかそれすらわからない初めと全く同じ顔で笑う、最年少のパイロットだった。

「こいつ意外と酒弱かったんだな。飲まないから知らなかった。いや、弱いから飲まなかったのか? それとも飲まないから弱いのか?」
 呟くディアッカに答えは返ってこない。
 知っているのはただ一人、潰れてしまった張本人なので。
 ただし、本人に実際に聞いた場合、彼の身の安全は保証されない。
 ビンが投げつけられるぐらいは最低でも覚悟しておくべきだろう。

「で。聞いてなかったが、その軍服はどこから調達するんだ?」

 一人現実的なことを口にするアスランも、つまりはイザークの罰ゲームに意義はないようだ。
 まあ当然だ。
 彼には関係ない、所詮他人事、楽しむ側なのだから。
 キラに潰すと宣言されたときはどうなることかと思ったが。
 早々に潰れてくれた同僚に心の中で感謝する。
 これからは心置きなく飲めるので。


「予備がいくつかあるでしょう? そこから」
「何生ぬるいこと言ってんのさ、ニコル」

 酔っているのだろうか。
 これは、酔っているのだろうか。
 それとも素面でもこうなのだと、そういうのだろうか。
 記録的なほどににこにこしてキラがさえぎった。
 その言葉自体は、あまり穏やかなものではない。

「自分で貸してください、って言いに行くんだよ」


 爆弾発言に、しばらくは誰一人言葉を発しなかった。

 最初にわれに返ったのはディアッカだったとか。
 胃をおさえるようにして呟いて。


「部屋が…………。俺の、部屋、が……」


 

おまけ2

〈敗者・ディアッカ〉

 バスルームに続くドアが、開いたのは想像されうる時間よりも些か時間がかかってだった。
 たぶん。
 そう、たぶん。
 いろいろと葛藤があったりなんか、したんだろう。
 少しの同情と少しの不安と、少しの安心感など抱えてアスランはそちらへ目を向けた。

 酔いつぶれたのは、意外というかなんと言うか。
 三分の一の酒を提供したディアッカだった。
 敗因は簡単で、一言で言ってしまえばイザークのせいだ。
 何が何でもアスランに負けたくないと思ったらしい彼は、アスランがなかなか酔わないとみると、作戦を変えた。
 いつもどこまでも真っ直ぐで、正々堂々を掲げる彼にしてみれば珍しいことだ。
 よっぽど女装が嫌だったと見える。
 気持ちはわからないこともないが。
 それでもなんとなく、ディアッカの女装を見るぐらいなら……と思えるのは終わったからだろう。

 他に人選はなかったのか。
 と言えば、なかなか厳しい。
 ニコルは、二日酔いに苦しむキラがうわばみってなんだっけと呟いていた――そのあと自分で、熱帯産のニシキヘビだよねとかなんとか言っていたのは、まだアルコールが抜けきっていないせいだったのだろうか。
 アスランは、まあイザークが諦めたぐらいだ。
 そしてキラは、と言えば…………。
 意味がなかった。
 潰そうと注いでやるまでもない。
 自分でビンを抱え込んでパカパカ飲んでいた。
 ラッパ呑みに発展しなかったのがいっそ不思議なくらいだ。

 と、いうことで、結果的にディアッカになってしまったという話なのだが。

 入ってきた緑の軍服に――キラは紅の、というかピンクのスカートを希望していたがさすがにサイズがなかった。と、いうか、むしろ緑でもなんでもディアッカが着れるサイズがあったことに純粋に驚いた。ちなみにスカートがなかったら変わりに隊長の仮面だったらしい。どちらがマシかと考えれば、ディアッカが選択したとおりなのかもしれない――予想通りの姿があった。


「あ、結構似合ってるね」

 長い付き合いだが、最近キラの趣味がわからない。
 楽しそうに言う。
 本気で言っているのかそこは不明なのだが、なんとなく、わからなくていいような気もした。

「ほんとですね。思ってたより可愛いでしょ、ディアッカ」

 相槌を打つニコルは、性格の通りなので補足の必要はないだろう。


「そ、そう?」

 ヤケなのかシナをつくってみせたりもするが……。
 いやなになかなか痛い風景だ。
 顔が引きつっているところがまた。
 いっそなりきってしまう予定だったのだろう。
 しかしキラとニコルに出鼻をくじかれたか。
 気持ち悪いと言われたほうがまだ救いがあった気がする。


 いや、アスランはしっかり気持ち悪いと思うのだが。


「あたし可愛い?」
「気持ち悪い」

 同室に笑顔を振りまけば、一瞥のもと切ってすてたれた。
 どこか安心したような顔が、むしろ切ない。

「え、そう?」

 また傷を広げようとする輩もいるのだが。

「意外とマニア受けしそうだなあ、とか思ったんだけど」

 爆弾は連続投下される。
 戦術的にはとても効果的だ。
 効果的、なのだが。
 はたしてディアッカは敵だっただろうか。
 考えることがずいぶんと現実逃避の色を帯びてきたことに、さすがのアスランも気付いているが。
 気付いてはいるが。

 長い付き合いの幼馴染の知らない姿に最もショックを受けているのはアスランだった。



「マニアってなんだ!?」

 イザークは、元気だ。

「マニアっていうのはですね、一つの事に異常に熱中する人のことですよ」
「いやそれ……、たぶん聞かれてんのと違うんじゃね?」

 ニコルも、元気だ。
 ディアッカも意外と元気だ。

 さて。
 誰の罰ゲームだったか。


 

おまけ3

〈敗者・アスラン〉



「あはは。あはははははは」

 能天気な笑い声が、突如発作のように始まった。


「よっしゃっ! 勝った!!」

 キラ・ヤマトだ。
 ガッツポーズが斜めなのは、やはり彼も彼で酔っているからだろう。


「アスラン潰れた」
 嬉々とした声は、いっそ鬼々ではないのかと、幸運なのか不幸なのか意識のはっきりしていた数名は、思った。






 肌寒い、と布団を引き上げようと手を彷徨わせ、それが何もつかまなかったことで、アスランの意識は浮上した。
 ぼんやりと開けた目の向こうにキラが見える。
「あ、起きちゃった?」
 その声は楽しそうでもあり、残念そうでもある。

 おはよう、と言おうとして気がついた。
 どこがどうなって何がどうなっているのかと言うことに。

 アスランは仰向けに寝ている。
 そして目の前にキラが見える。
 つまり、キラは上に見える。
 そして、はっきりと重いと感じる。
 つまり………………。

 乗られてる?


「キっ……」
「あ、ちょっと」

 考えなしに突然起き上がろうとしたせいで頭がぶつかりそうになったが、それを器用に避けたキラからは不満の声をもらった。
 じっとしていろとそう言うキラの手は………………。
 なるほど、肌寒いはずだ。
 着々とアスランの服を脱がしている。

 いやまて。
 そんな冷静に状況判断をしている場合ではない。

 もしかしてこれはあれなんだろうか。
 俗に言う、襲われている、と。


「何、してんの、キラ」
「脱がしてるの」
「じゃなくて」
「ん〜? だってアスラン潰れちゃったからね。罰ゲーム」

 ――――本気で期待したわけでもないけれど。
 やはり少し哀しかった。
 横でひらひらと舞うスカートを見せられて更に切なくなった。
 だいたいどこからもってきたんだ。

「特別に僕が着替えさせてあげようと」

 抵抗したかった。
 したかったが、世界がぐるぐると回っていた。
 同時にぐるぐるぐるぐる回っていたのは後悔だ。
 何故あんなにも飲んだのか、というか飲まされたのか。
 何故潰れてしまったのか。
 しかも一番に。
 他の奴を潰しておけばよかった。
 言い出せばキリがないが、最大のものが一つ。


 ここまで酔ってなかったら、とても心躍る状態なのに、と。
 キラに手をださない自分がいっそ不思議でしょうがなかった。





 もうちょっと。
 もうちょっと酔いが醒めたら…………と、思うが。
 しかしその頃には自分がどんなことになっているのか、不安で仕方なかった。
 キラのやるときはやるその徹底的な性格を考えて。

 

おまけ4

〈敗者・キラ〉

「あ〜すぅ〜らあん?」

 舌ったらずな声に、そちらに振り向く前にアスラン・ザラは襲われた。
 文字通り。
 アスランを呼んだ彼はがばっと抱きついてきたと思えば、そのまま押し倒すかのように唇を押し付けてきた。

 いやその、なんだ、かなりおいしい状況ではあったが。
 ただし。
 ここが自室であったならば、の話になるが。
 積極的なキラは本当に珍しいから。
 そう、涙がでるくらいうれしい。

 だがしかし。
 場所が悪い。
 ここはイザークたちの部屋で、そしてこの部屋にいるのはあいにくとキラとアスランの二人だけではない。
 部屋の主であるイザークとディアッカがいれば、ニコルだっているのだ。
 そんな面々の前で熱烈なキスなどできるわけがなかった。
 もっともキラも素面であったならしてるわけがなかったが。

 とにかくアスランは異常ともいえるキラのペースに、それを止めなかった数時間前の自分を恨んだ。


 案の定興味津々な2対の瞳と、どうにも目が離せないらしい一人がこちらを見つめているではないか。


「うわ〜、あっついですねー」
「キラ積極的ぃ」
「な、な、なっ、なあっ!? 何をやっている!!?」

 好意的な意見も否定的な意見もどちらもあまりうれしくはなかった。

 やだ、もっととねだるキラをひきはなし――とてもおしいことをしているとアスランにとっても究極の選択だった――あとはため息をつくぐらいしかできることがなかった。

「飲みすぎだよ、キラ」
「え〜? そんなことないよ? まだいけるっ」

 そんな高らかに宣言されても。
 もうアスランのほうにこれ以上飲ます気がなかった。
 意地でもとめなければ、と。
 こんなことではこっちがもちそうにない。
 ……いや、なにがときかれると非情に困るが。しかし。

 判断し、アスランはまだ腕を絡めているキラごと立ち上がった。
 とはいえキラはアスランが支えてやらなければずるずると落ちていってしまっていただろう。
 視界がはっきりとしていることには安堵して、アスランは一応ニコルのほうへと向き直った。

「キラの負けだな」
「何らよそれぇ、まら勝負はついてらいんらからなあ、アスラン」

 回らない舌に、明日の朝に思いをはせて、なんだか疲れてしまった。
 二日酔い決定だ。
 さて、キラは起き上がれるのか。
 確かシフトは朝から入ってはいなかっただろうことが唯一の救いだ。


「駄目。これ以上は飲ませられません。ということで、連れて帰るから」
「いやあ、チューしてくれないと、キラうごかないぃ〜」

「だってよ?」
「いや無理だから」
「してあげればいいじゃないですか」
「無責任に言うなよ」

 キラの肩を持つかのような発言をする二人も、キラが相当酔っていることだけは認めて、そろそろ切り上げたほうがいいんじゃないかとは思っているのか、そうは言いながらもひらひら手をふってきた。

「ほら、帰るぞ」
「らめっ! 負けたら罰げーむなんだよ」

 だからなんだとそう一笑にふしてしまえるほどのことではなかったが、それにしてもキラをこれ以上ここにいさせてはいけないという使命感のほうが先立った。
 だいたい限度も忘れて飲みすぎるほうが悪いのだ。
 ここはせいぜい罰ゲームでもしてもらって、頭を冷やしてもらったほうがよい。
 完全に酔いつぶれてしまったというわけではないが、この調子なら明日の朝には記憶などとんでいるだろう。
 それは誤魔化す上でとても好都合だ。
 とそう考えた上での『帰るぞ』であったのだが。

 さすがのアスランのキラの次の行動は予測できなかった。
 そう、えてして酔っ払いというのは何するかわからない生き物である。


 軍服の上着に手をかけたキラはここで、今、脱ぎ始めようとしているのだ。

「何してるんだ、お前はっ!?」

 思わず叫んでしまってもこれは致し方ない。

「ええ〜? だからあ、キラの負けぇ〜なんでっしょお? 男なら負けたら潔く罰ゲームしなくちゃね」
「いや待て。だいたい今ここに女性用の軍服はないだろっ!? 明日にしろ、明日に」

 それでも止めきれずにキラの鎖骨付近の肌があらわになると、もうどうしようもない。
 アスランはキラを抱えて飛び出した。

「悪い。あとは適当に楽しんでくれ。俺はこいつをどうにかするっ!」

 止める者は、いなかった。

 

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(一言)
文章が……ちゃちい。